〝日本一汚れた川〟から〝鮎が泳ぐ川へ〟。大和川再生のお話。
清潔を届け、安心を支える。その約束の土台となっているのが水です。だからこそ、今回の記事では、地域の〝水〟についてご紹介したいと思います。取り上げるのは、大阪南部を代表する一級河川の大和川です。
江戸時代に付け替えられた一級河川
奈良県の山地から、亀の瀬を抜けて大阪平野を西へ、最後は大阪湾へそっと注ぐ大和川。近畿地方整備局によると、川の長さは約68km、流域面積約1,070km²の一級河川で、奈良・大阪の広い地域の生活と産業を支えてきました。
歴史を辿ると、今のまっすぐな川筋は、江戸時代の「付け替え」工事の名残。年表によると、元禄16(1703)年に幕府が大和川付け替えを正式決定し、翌年に着工・完成しました。洪水に悩む村々の思いに応え、旧来の北流を改めて大阪湾へ直接流す〝新しい川〟が拓かれたのだそうです。
3年連続〝汚染が進む川〟という汚名
大和川には、もうひとつの顔がありました。大阪府の解説によると、平成17(2005)年から3年連続で国管理の一級河川ワースト1位(BOD)を記録するなど、「日本一汚い川」と報じられた時期がありました。
さらに大和川水環境協議会の白書によれば、さかのぼると昭和45(1970)年には水の汚れを示す数字がとても高い状態でした(BODの代表値が31.6mg/L)。都市の成長と引き換えに、水は長く疲弊してきた――そんな記憶が、川には刻まれています。
そんな川が蘇っていたことはご存知でしょうか?白書によると、2005年に「大和川水環境協議会」を設立。下水道や合併処理浄化槽の普及、河川浄化施設の整備、事業所排水の規制・指導、地域の清掃・環境学習など、源を断つ取組みを重ねたとされています。大阪府のまとめでも、これらの対策の結果、2008(平成20)年以降は本川8地点すべてで環境基準を達成したと報告されています。
「どれくらいキレイになったの?」という問いには、最新データで答えるのがいちばん確かです。近畿地方整備局の「令和5年度の大和川の水質」によると、流域全体の取り組みで水質は年々改善し、「今ではアユの産卵や遡上が継続的に確認されています」と明記されているほど。
近畿地方整備局の「自然再生」資料では、大和川でアユやオイカワが産卵する瀬、カマツカやカワヨシノボリが暮らす淵の機能を取り戻す取り組みが紹介され、アユの遡上は年ごとに増減しつつあるようです。また同局の別資料では、仔アユの確認や産卵場調査の実施区間が具体的に示されており、川の〝命の循環〟が着実に戻りつつあることがうかがえます。
豊かな自然にやってきた思わぬ外来種
自然が整い、生きものが戻ってくると、思わぬお客さんも現れます。毎日新聞の地域記事によると、近年、奈良県側の大和川水系では特定外来生物のヌートリアの目撃が増え、自治体が「近づかない・餌を与えない」といった注意を呼びかけています。南米原産の大型げっ歯類で、各地で農作物被害の報告もあるため、見かけても触れないことが大切だそうです。
大和川は大阪と奈良のまちと人をつなぐ生活インフラです。歴史的な付け替えで洪水から暮らしを守り、高度成長の影で水質悪化を経験し、そして地域ぐるみの努力で清流の手応えを取り戻してきました。
水が汚れる原因の半分以上は生活排水です。台所での油の処理、洗剤の使い方、節水の習慣など、人ひとりの小さな選択が、流域の大きな改善につながる。そんな視点で、身近な水をもう一度見直してみませんか。私たちも、よりいっそう、水について考える時間を増やしていきたいと思っています。
【本記事で参考にした参照資料】
・近畿地方整備局「大和川水系」
https://www.kkr.mlit.go.jp/river/kasen/yamatogawa.html
・近畿地方整備局「大和川付替え300周年」(年表)
https://www.kkr.mlit.go.jp/yamato/about/yamato300/tukekae/tukekae2.html
・柏原市教育資料「大和川つけかえと万年長十郎」
https://www.city.kashiwara.lg.jp/docs/2025082500079/
・大和川水環境協議会『大和川 水環境白書』(抜粋)
・大阪府「もっとキレイに!大和川」
https://www.pref.osaka.lg.jp/o120080/jigyoshoshido/kawachiiki/mo-top.html
・近畿地方整備局「令和5年度の大和川の水質」(PDF)
https://www.kkr.mlit.go.jp/yamato/river/suisitumap/oi2v780000000t3q-att/R5map.pdf
・近畿地方整備局「自然再生(大和川)」資料(PDF)
https://www.kkr.mlit.go.jp/river/kankyou/tashizen/ol9a8v000000d2f6-att/06yamatogawa.pdf
・近畿地方整備局「河川の本来機能の再生(魚道の整備)」
https://www.kkr.mlit.go.jp/yamato/keikaku/approach/approach_07.html
・毎日新聞「ヌートリア触らぬよう注意喚起 奈良・生駒」